予てより愛してやまないGraveyardのエピソードについては、今までの記事でも何度か取り上げたことがあったかも知れないが、先日随分前に撮った写真を公開したところ予想以上の反響があったため、今回は特集を組んでみよう。
Graveyardを初めて目撃したのは、1992年頃の駒沢公園だった。
関君が往年の名車Homeless Soulbroに黒のOG(Original Graveyard)バーを誇らしげに引っ提げて登場したのだ。グリップ部にはHomelessのステッカー、そこにクリアーのグリップを装着し中のロゴを浮かび上がらせるという粋な演出。
正直、第一印象はそれほど興味が湧かず、他社ELF等ピース数の多いバーの類いだろう程度の目線でしか眺めていなかった。なんでもその時分の我がBMXの常識、いや、絶対なスタイルとして、HARO KneesaverかPEREGRINE Q-bar以外は専ら「圏外」だった。
やがて先輩の勧めでコンテストに出るようになり、多くのライダーがcoolに纏っていたフラット仕様というbarのスタイルに憧れた。
その殆どはそれこそbaco4に登場するchris ryeやjesse puenteが付けていたQ-barを一段カットした仕様であり、しばらくの時間を経て、かの伝説にも崇められた名作「4130 WEST COAST」に出演していたjesseが、極端に低い4ピースのバーを装着していることに全国のライダーからの注目が集まった。
それが、あのGraveyardからリリースされるjesse barと知り、シーンの最前線にいた会沢さんが早速jesse barでJFAにエントリーしており、生でみたCPのjesse barの斬新さに心奪われた。
そう、初めて見たOG barにそこまで惹かれなかったのは、たまたまそれが黒だったからだ。jesse barもCPじゃなければ大して注目しなかっただろう。
欲しいものは如何なる手段を用いてでも手に入れたい。
そんな魅力的なパーツが当時はいくつもあった。
そんなある日、様々な面において熱いライダー、また、江戸川区のchase gouinの異名を持つ田代秀平君と、その先輩方とDIG-ITに行こうとの話が持ち上がった。
ハナワ君&エンドウ君
先輩方2人は、ディープアンダーグラウンダーでかつ当時稀に見るハイスキルの持ち主で、初めてお会いした時既にbaco4,5あたりのルーティーンを網羅していた、言わば本格派「裏」のライダーだったのだ。
田代君からエンドウ君がCPのjesse barを所有しているとの情報を聞きつけ、交渉し格安で譲ってくれることになった。取り引きをそのDIG-IT訪問の時にしようと話がまとまり、早朝に渋谷で待ち合わせをしハナワ君の車に同乗し一路DIG-ITへ。
MT車の運転に慣れていなかったのか、恐ろしくハイドロ仕様な乗り心地だったのも今となっては懐かしい思い出だ。
念願のjesse barも手に入れ舞い上がるのも束の間、今度はOG barにCPがあることを発見。その美しいフォルムに、CPにするだけでここまで格好良くなるものかと、たちまち目移りし今度はそれを付けていた田代君に自分のjesse barを交換しようと持ちかけたところ、2つ返事で田代君は手を打ってくれた。手に入れたOG barは、かなり初期の頃の第2型?3型?あたりのタイプで、後期のタイプに較べクロスバーがやや高い位置に溶接されており、押し出しの強い面構えだった。因みに参考資料によると、元祖のOG barはバーエンドも溶接してあったとのことだ。
Graveyardが世界的に普及し、各地でOGバーを見るようになると次は新型のクロスバーが低いタイプが欲しくなってきた。今更ながら当時のミーハー根性もいい加減にしろと自分に言いたい。
その後Graveyardの社長兼ライダーだったrichardが不慮の事故により他界し、兄であるanthonyがプロダクトを継承する運びとなったのだが、そこはやはり100%ピュアなライダーズカンパニー。
生産が追いつくよりも前に注文が殺到し、注文したものの手に入るのか不安な日々が続いた。自分含めライダーもまだまだ子供だったのだろうか、亡くなったrichardのことよりも、「barはどうなるんだ」等々身勝手な会話のやりとりを多く耳にした。
再生産を心待ちにしているさなか、シーンにおいても姑息に生き延びる勢力はあり、そのあまりのGraveyard人気に目をつけた数社が、なんと正真正銘の偽物、よく言えばレプリカを生産し始めたのだ。
問題の「贋作」とやらはバリエーションが実に多岐にわたり、かなり精巧にできているもの、CPの光沢で真偽を判断するもの、あからさまに形状の違うもの、開き直ったか別の路線に奔走しているものと様々だった。
しかしそういった代物はとある歌詞にもある、
安っぽいメッキなら すぐに剥がれてしまう
まさしくその通り。
メッキのクオリティー如何に留まらず、クロモリ4130ではなく薄利多売の顛末とも言えるハイテン1020で製造し叩き売ったため、各地でひどく垂れ下がった偽Graveyardを見かけた。当時の貴重な情報源DIG-IT ZINEでも、間違わないようにと注意喚起を促していた。
そんな中身のない空っぽなアイテムは自然淘汰され、いよいよ本物のGraveyardの入荷の目処がたったとの一報が舞い込んできた。
Graveyardとしても長期にわたりユーザーを待たせたことを深く受け止めているのか、今回入荷分のOG barはラインナップもCPに加え、新たにブラックニッケル(黒メッキ)、jesse barも従来品にはなかったシャンパンゴールドが加わるといった気合の入りよう。限定品として純金メッキ24カラットでコーティングしたjesse barも登場するなど、第二次Graveyard旋風を巻き起こし、注文から約2年の時を経てある日我が家にも念願のOG barが届いていた。
箱を開けるなり、貴婦人が如く輝きを放つCPの鏡面、誇らしげなGraveyardのステッカーに酔いしれた。
それ以来このbarと共にライダー人生を二人行脚することになる訳だが、ごく稀にクロスバーの捩れ、凹みといった量産につきものの「外れ」も一部にはあったようだ。
その後高志君がDIG-ITのサポートライダーに加わり、シグネチャーモデルT.I barを発表。T.I barと言えば最終型が有名だが、元祖T.I barはOGバーのデザインをそのままスケールダウンさせたものだった。
夜な夜な立川で一緒にライディングした時も、目の前でみても説明されるまでわからなかった。
数年後、ロサンゼルスのUS DIG-ITを訪れ工場内を見学させてもらい、そこは大量のOG bar、T.I bar、jesse barに溢れた夢のような空間だった。
その場のノリでオリジナルのbarも作ってしまう勢いで、US DIG-ITのスタッフだったaugieもギャグで自らのオリジナルaugie barを製造、そしてマニア好みの少数限定ではあったが、まさかの発売にまでこぎつけたのだ。
‥ただひとつ、その工場内で見てはいけない物をみてしまった。知らない方が幸せだったかもしれない。
何をどうすればこんなことになってしまうのか、augie曰くクレーム品とのことでOG barがグリップ取付部のパイプが根元から見事にもげてしまっていたのだ。
ひびでもなく、歪曲でもなく、完全にセパレートしてしまっている。
GRAVEYARD = 墓場まで
転じて、「一生壊れない」を謳い文句にしていたキャッチコピーを幼心に頑なに信じていた自分にとって、神話が崩れ去った思いだった。
同時に、18tもの荷重テストにも耐えうるOG barを折ってしまったライダーが恨めしかった。
しかしその後もOG barは地道に進化を遂げ、後期のタイプは一見同じデザインだがステムにクランプする部分のパイプと、平行する縦のパイプとの溶接部が面一に加工されたりとライダー思いの工夫が施されていたのも、やはりライダーが作るからわかる、痒い所に手が届くアイデアが生まれるのだろう。
自分も三十路を迎え、別のbarを使っていた時期もあったが、購入から13年経ったある日、マシンを整備中にふとクラックを発見してしまったことがあった。その箇所は紛れもなく昔augieに見せてもらったクレーム品と同じ部分だったのだ。
パーツは使うことにより真価が発揮される。我が持論に則りいつでも使える状態にしておきたいという思いから、そのOG barに溶接を施し、現在に至る。
思えば、ロサンゼルスでクレーム品を見てしまったあの時、Graveyardの神話と共に自分の青春も終止符を打ったのかもしれない。
最後に、久々のライダー捜索願い。
ディープアンダーグラウンダー、ハナワ君&エンドウ君をご存知の方、ご一報を。